トルク計の開発に携わって
昔から製造業において、トルクを測りたいというニーズはありました。多くはエンジンや鉄道、または大型印刷機の軸部分など動力系の大きなトルクの測定です。
その構造は滑車の周りに糸を巻き付け、その先端に分銅をつけて吊り下げる方式です。そのサイズも両手で持たなくてはいけないほど大きく、重いものでした。
21世紀に入ると科学技術の進歩とともに、より小さなトルク測定が求められるようになりました。しかし従来の方式では構造上、再現性や安定度に問題があり、その要望に応えることはできません。当社が微小トルク計の開発に着手したのも、ちょうどその頃です。
当社ではひずみゲージを使ったビームタイプ方式を採用しましたが、低容量かつ小型・軽量化することは想像以上の難題でした。特にこの方式では僅かなひずみを電気信号に変換してトルクを測るため、当初は発生した信号が正規のものなのかノイズなのかの判別が非常に困難でした。
それでも測定器各部の材質を見直したり、加工方法を改善することによって、トルク計の性能は徐々に向上し、最小0.2mNmのトルクを測ることが可能になりました。
この微小トルク計はベアリングメーカーのラインで大量に採用され、お客様にとても喜んでいただきました。それまでの苦労が報われる思いでした。
お客様からはトルク測定について、いろいろなご相談をいただきます。
例えば、「ボルトを締め付けるとき内部に発生する応力を測定できないか」とか「トルクスラスト計でトルクとスラストを同時に測定できないか」などといったお問い合わせです。
知恵を絞ってお客様のご要望に叶う装置をお納めできたときは、設計に携わる者としての冥利に尽きますが、どうやっても上手くいかないこともあります。そのときは気持ちを切り替えて、その経験を次の仕事に活かそうと考えています。
いま取り組んでいるのは、トルクリミッター内蔵型の小型トルク計です。これが完成すれば、トルク測定がより手軽で簡単、安全なものになります。
今後もさらに微小なトルクを測りたいというニーズが出てくることでしょう。そのときは従来とまったく違う方式が必要となります。
トルク計開発に終わりはありません。
トルク計設計部門リーダー 斉藤勝美